多重物体追跡(MOT)課題:テストとトレーニング研究

更新日

多重物体追跡とは?

典型的な多重物体追跡課題では、同じ見た目の点やボールが表示され、そのうちいくつかが一時的に標的として示されます。印が消えると、すべてが数秒間動き回り、やがて止まります。課題は標的を選び出すことです。

この課題は、Pylyshyn と Storm が1988年に学術誌 Spatial Vision に発表した論文に由来します。参加者は、ランダムに動く同じ見た目の10個の物体のうち、最大5個の標的を追うことができました。研究者は、標的を1つずつ順に確認する方法では正答率が約40%を超えないように速度を設定しましたが、参加者の正答率は87%でした。Pylyshyn と Storm はこれを、視覚系が少数の物体に同時に目印(インデックス)を付けておくという、FINST と呼ばれる以前のモデルと結びつけました。

Meyerhoff、Papenmeier、Huff による2017年のチュートリアルレビューは、MOT は動く対象への持続的な注意を調べるのに適した方法だと論じています。また、この課題は運転やチームスポーツで使われる注意を反映していると多くの研究者が主張していること、追跡については部分的に相反する理論がいくつも提案されていることを書いています。

同時に何個まで追える?容量の限界

初期の研究では、限界は約4個とされました。その後の研究で、数は条件によって変わることがわかりました。

  • 速さ:2007年の研究で、Alvarez と Franconeri は、ゆっくり動く場合は最大8個を追えたが、速い場合は1個しか追えなかったことを示しました。彼らは、追跡は決まった数の枠ではなく、柔軟に配分される資源に頼っていると結論づけました。
  • 左右:2005年、Alvarez と Cavanagh は、標的がすべて片側にある場合に比べ、視野の左右に分かれている場合は2倍の数を追えたと報告しました。
  • 年齢:Sekuler らによる2008年の研究では、高齢者(平均75歳)の追跡成績は若年成人(平均21歳)よりかなり低く、動きが速いときや追跡時間が長いときに差が目立ちました。
  • ゲーム:2006年の研究で、C. Shawn Green と Daphne Bavelier は、アクションビデオゲームのプレイヤーは非プレイヤーより約2個多く追えたこと、アクションゲームでトレーニングした非プレイヤーにも同じ種類の向上が見られたことを報告しました。

研究での多重物体追跡テスト

研究者は、標的の数、おとりの数、動く速さ、動く時間などを変えて、課題を易しくしたり難しくしたりします。多くの版は、決まった設定での正答率を記録します。ほかに、1つの設定(多くは速さ)を試行ごとに調整し、ぎりぎりこなせるレベルを探す版もあります。たとえば2013年の研究では、3D表示の9個の球、3個または4個の標的、10秒間の動き、速さの階段法が使われました。

オンラインの多重物体追跡テストでは、課題がどのようなものかを体験できます。ただし、版ごとに設定が違い、画面の大きさやタイミングも異なるため、スコアはサイトや端末の間で比べられません。

NeuroTracker と3D多重物体追跡

NeuroTracker は、この課題の商用3D版です。モントリオール大学の Jocelyn Faubert による2013年の論文は、このソフトウェアが、モントリオール大学からライセンスされた実験手続きの商用版として CogniSens Athletics から提供されていると述べています。Faubert が共著者の2013年の論文では、彼が NeuroTracker を製造する CogniSens の最高科学責任者であることが開示されていました。2021年のシステマティックレビューは、このツールが Faubert の名を冠したモントリオールの研究センターと CogniSens Athletics によって宣伝・販売され、いくつかのリーグのプロクラブが使っていると報じられていると述べています。

308人を対象とした Faubert の2013年の研究では、最大15回のセッションで、プロのアスリートはエリートアマチュアより速く課題を習得し、エリートアマチュアは大学生より速く習得しました。サッカーにおける NeuroTracker の研究は、著者らが以前の結果を再現できなかったと書いた2025年の追跡研究も含め、周辺視野トレーニングのガイドで扱っています。

多重物体追跡トレーニング:研究でわかったこと

研究全体を通じて、人は練習した追跡課題がうまくなりました。ほかの課題やスポーツでの結果は研究によって異なりました。Vater、Gray、Holcombe による2021年の NeuroTracker のレビューは、事前登録された研究を1つも見つけられず、ワーキングメモリと持続的注意の向上を示すエビデンスを「非常に弱い」とし、実際の場面での課題を調べた3つの研究のうち2つで効果がなかったことを見いだしました。脳トレ全般については、ゲームの背景にある科学のハブで近転移と遠転移を説明しています。

多重物体追跡トレーニングの主な研究
研究デザイン対象トレーニング報告された結果
Green・Bavelier 2006群間比較とトレーニング若年成人(プレイヤーと非プレイヤー)アクションビデオゲームのプレイプレイヤーは約2個多く追跡。トレーニングした非プレイヤーも向上
Arend・Zimmer 2012対照群のあるトレーニング研究成人MOTトレーニングMOTで大きな向上。視覚記憶課題でのフィルタリングへの転移はなし
Legault 2013(Faubert が共著者、CogniSens での役割を開示)2つの年齢群、対照群なし若年成人10人と高齢者10人(高齢者は9人を解析)3D-MOTのセッション高齢者は開始時の成績が低かったが、若年成人と同じ速さで習得
Tullo 2018(Faubert が共著者)ランダム化、実薬対照と通常のケア神経発達症のある6〜18歳の生徒5週間で3D-MOTを15回注意の検査スコアは3D-MOT群でのみ向上
Fleddermann 2019トレーニング群 対 練習のみの対照群エリートバレーボール選手43人3D-MOTを8週間課題と、4つの近転移テストのうち2つで向上。バレーボールのブロックのテストでは対照群と有意差なし
Harenberg 2022ランダム化大学サッカー選手31人4週間で10回3D-MOTの成績は向上。意思決定に有意な変化なし
Acquin 2025相関研究、2019〜2022年シーズン大学のホッケーとバレーボールの選手48人なし(ベースラインのスコアのみ)ベースラインのスコアはシーズン成績と関連なし(ペナルティ時間を除く)

スポーツでのMOT

スポーツで多重物体追跡が使われる背景には、複数の選手を同時に追うときには実験課題と同じ注意が使われているという考えがあります。2017年のチュートリアルレビューは、この結びつきがよく主張されていると指摘しました。それを直接検証した研究は、コーチが評価したパスの判断、実験室でのバレーボールのブロックテスト、少人数のゲーム、シーズン成績など、それぞれ異なるものを測っていました。上のトレーニング研究では、トレーニングしたアスリートは追跡課題がうまくなりましたが、スポーツの指標への効果は研究によって異なりました。

Vater らはまた、数百ある基礎的なMOT研究が示す能力は、NeuroTracker の宣伝で説明されている能力とは異なると論じ、今後の研究への提言をまとめています。研究を読むときは、実薬対照群(アクティブコントロール)があるか、事前登録されているか、著者にツールとの金銭的なつながりがないかを確認しましょう。

Optics Trainer の位置づけ

Optics Trainer は、iPhone、iPad、Android、ウェブブラウザ、Meta Quest で使える、ゲーム形式の視覚・脳トレーニングアプリです。アプリの画面は日本語に対応しています。次のゲームとドリルは、多重物体追跡をモデルにしています。

これらのゲームは、印の付いた標的、同じ見た目のおとり、動き、そして選択という実験課題の核を保っています。変えているのは外側の部分で、漫画風のUFOや回転するペア、3Dの実験用表示の代わりのゲーム画面、ポイント、研究プロトコルではなくゲームのレベル設計で決まる設定を使っています。ここで紹介したどの研究でも検証されていません。追跡能力の検査や測定ではなく、Optics Trainer は治療や診断を目的としたものでもありません。FDA の承認(クリアランス)を受けておらず、日本で医療機器として承認されたものでもありません。測定のための製品は、クリニックサイト(英語)で紹介している Optics Tracker です。Optics Trainer は専門家による診断や処方された治療の代わりにはなりません。ご自身の状態については、眼科医や視能訓練士などの専門家にご相談ください。

スマートフォン・タブレット版アプリは7日間の無料体験から始まり、無料のウェブアカウントでは1日3回までプレイできます。その後、モバイル版とウェブ版は App Store では月額 ¥2,500(Google Play とウェブ版は購入時に価格が表示されます)。年間プランもあります。VR 版にも7日間の無料体験があり、その後の価格は Meta Quest Store でお住まいの地域の通貨で表示されます。

  • UFO Bounce:印の付いた複数のUFOを、跳ね回るおとりの中で追い、最後に選び出します。レベルごとに、速さ、標的の数、おとりの数、動く時間のいずれか1つが変わります。
  • Target Rotator:球のペアが回転し、各ペアで印の付いた方を選びます。レベルごとに、速さ、ペアの数、ペアの回り方が変わります。
  • どちらのゲームも、左右の眼が画面の一部ずつを見る両眼モードでプレイできます。スマートフォン、タブレット、パソコンでは赤青メガネを使い、Meta Quest では組み込まれています。
  • 「Drills」タブの多重物体追跡ドリル:Multiple Dots、Multiple Dots 3D、Spinning Pairs。スコアのない、見て追うドリルで、速さはゆっくり・普通・速いから、時間は1分・2分・3分から選べます。

Optics Trainer をダウンロード

ダウンロード無料。アプリは7日間の無料トライアル付き。ブラウザでは1日3回まで無料でプレイできます。

よくある質問

多重物体追跡とは?

印の付いた複数の標的が同じ見た目のおとりの中を動くのを目で追い、最後に標的を選び出す課題です。Pylyshyn と Storm が1988年に、注意を研究するために考案しました。

人は同時にいくつの物体を追えますか?

初期の研究では約4個でした。2007年の研究では、ゆっくり動く物体なら最大8個、速い物体なら1個しか追えず、2005年の研究では、標的が左右に分かれていると2倍の数を追えました。

多重物体追跡テストとは?

研究では、標的とおとりの数、速さ、時間を決めて行うMOT課題、または1つの設定を調整してその人の限界を探す課題を指します。オンライン版はそれぞれ独自の設定を使うため、スコアは比べられません。

多重物体追跡トレーニングに効果はありますか?

人は練習した追跡課題がうまくなります。ほかの課題やスポーツへの転移は研究によって異なり、2019年のバレーボールの研究では一部の近転移が見られたもののスポーツのテストに変化はなく、2022年のサッカーの試験では意思決定に変化はありませんでした。

NeuroTracker は科学的に検証されていますか?

2021年のシステマティックレビューは、事前登録された研究を見つけられず、ワーキングメモリと持続的注意の向上を示すエビデンスを非常に弱いとしました。いくつかの研究は Jocelyn Faubert が共著者で、彼は2013年の論文で、NeuroTracker を製造する会社の最高科学責任者であることを開示していました。

なぜスポーツでMOTが使われるのですか?

複数の選手を同時に追うときには実験課題と同じ注意が使われると研究者がよく主張しており、NeuroTracker の開発者による2013年の研究では、プロのアスリートが3D-MOTを最も速く習得しました。トレーニング研究では、アスリートは課題がうまくなりましたが、スポーツの指標への効果は研究によって異なりました。

多重物体追跡のゲームはありますか?

あります。Optics Trainer の UFO Bounce と Target Rotator はこの課題をモデルにしており、スマートフォン、タブレット、ウェブ、Meta Quest で使えます。ここで紹介した研究では検証されておらず、追跡能力を測るものではありません。

出典

  1. Pylyshyn ZW, Storm RW. Tracking multiple independent targets: evidence for a parallel tracking mechanism. Spat Vis. 1988
  2. Meyerhoff HS, Papenmeier F, Huff M. Studying visual attention using the multiple object tracking paradigm: a tutorial review. Atten Percept Psychophys. 2017
  3. Alvarez GA, Franconeri SL. How many objects can you track? Evidence for a resource-limited attentive tracking mechanism. J Vis. 2007
  4. Alvarez GA, Cavanagh P. Independent resources for attentional tracking in the left and right visual hemifields. Psychol Sci. 2005
  5. Sekuler R, McLaughlin C, Yotsumoto Y. Age-related changes in attentional tracking of multiple moving objects. Perception. 2008
  6. Green CS, Bavelier D. Enumeration versus multiple object tracking: the case of action video game players. Cognition. 2006
  7. Faubert J. Professional athletes have extraordinary skills for rapidly learning complex and neutral dynamic visual scenes. Sci Rep. 2013
  8. Legault I, Allard R, Faubert J. Healthy older observers show equivalent perceptual-cognitive training benefits to young adults for multiple object tracking. Front Psychol. 2013
  9. Vater C, Gray R, Holcombe AO. A critical systematic review of the Neurotracker perceptual-cognitive training tool. Psychon Bull Rev. 2021
  10. Arend AM, Zimmer HD. Successful training of filtering mechanisms in multiple object tracking does not transfer to filtering mechanisms in a visual working memory task. Neuropsychologia. 2012
  11. Tullo D, et al. Training with a three-dimensional multiple object-tracking (3D-MOT) paradigm improves attention in students with a neurodevelopmental condition: a randomized controlled trial. Dev Sci. 2018
  12. Fleddermann MT, Heppe H, Zentgraf K. Off-court generic perceptual-cognitive training in elite volleyball athletes: task-specific effects and levels of transfer. Front Psychol. 2019
  13. Harenberg S, et al. The effectiveness of 3D multiple object tracking training on decision-making in soccer. Sci Med Footb. 2022
  14. Acquin JM, et al. Baseline Neurotracker performance does not correlate to overall season sport performance in university varsity athletes. Front Sports Act Living. 2025

関連ガイド

追跡ゲームを試す

UFO Bounce と Target Rotator は多重物体追跡をモデルにしたゲームで、スマートフォン、タブレット、ウェブ、Meta Quest で使えます。見て追う Multiple Dots と Spinning Pairs のドリルもあります。スマートフォン・タブレット版アプリは7日間の無料体験から始められます。

無料で始める